週末の一大ビッグイベント、光る眼を無事こなして週明け。
楽しい時間は一瞬で過ぎてしまった。
びっくりしたのは最初の自分の番でクジャクの護符が出たこと。フレンドたちはこっちが恐縮しちゃうほど喜んでくれて凄く盛り上がってた。箱を開けた瞬間、自分が気付くよりも先におぉって声があがったんだよね。
自分だけ悪いなぁなんて思ってたけど、フレンドたちの順番でも高額取引されている空蝉の術が出てくれてとてもいいイベントになった。
結局たくさんあるから、って印章を交換しにジュノ戻ってもう一周やったりなんかしちゃってみんなテンションあがって、来週は同じ三人で美髯公に挑戦しようなんて約束までしちゃった。
そうそう、フレンドたちって言ってるんだけど、自分のフレンドリストに一人増えた。
フレンドの戻って来た大切なフレンド。
帰り際、フレンドになろうよって自分の服の裾を引っ張ってきてしどろもどろでフレンド登録をした。よろしくね、って言ったら、こちらこそって大きくお辞儀されて心が温かくなった。
そんな新しいフレンドは写真が好きらしく、食事をして別れた後すぐにゲルスバ温泉でポーズを決めた写真を送ってきた。みんな全裸で踊ってて誰か来たらどうするのって感じだったけど、最高だよって返したらゲルスバ温泉から見下ろしたサンドリアの風景が送られてきた。
見た瞬間、胸がきゅっと締め付けられるというか、これが望郷っていう気持ちなのかもしれない。
こんな素敵な風景、ゆっくり見たことなんてなかった。
だからこっちもお返しに自分の好きな風景を、と思ってここラテーヌ高原までやってきた。
ここは自分の出発点。初めてロンフォールを抜けてここに出て、それで世界が拡がって。だからここが一番好き。
その中でも特にお気に入りがラテーヌの谷底。洞窟を抜けてちょっと奥へいくと一面にひろがる大きなタンポポ。風に揺れるタンポポは綿毛をぽんぽーんと飛ばしながら空に舞う。とても幻想的な瞬間。
寝そべって、空を見上げてその瞬間をおさめよう、って決めた。
蟹を横切って谷間へと駆け下りる。
最初の洞窟を駆け抜けて、タンポポが群生している原っぱにダイブした。一気に綿毛が舞い上がって思わずその瞬間を写真におさめる。
もしかしたら今のが一番いい瞬間かもしれない。だけど。
舞い上がった綿毛が降りてくる。続けて何度もシャッターボタンを押した。
雲ひとつない何処までも拡がる青い空と舞い上がる綿毛。
やっぱり、ここ大好き。
寝転がって大きく伸びて、写真じゃなくてナマでみせたいな、なんて思った。だって、写真じゃどう頑張っても綿毛がのぼっているのか降りてきてるのか分からないよね。この勢いよく飛び出した綿毛がゆらゆらと降りてくる、それを伝えたいのに。
「ねぇ、ヴァル。ちょっと見においでよ」
彼のフレンドをいきなり呼び出すのは出来ないから、気軽に呼び出せちゃうヴァルにいきなり呼びかけてみる。何かしてるのかな、と思ったらすぐに返事がきた。
「あ?」
聞きましたか奥さん。
「いや、忙しいならいいんだけど」
「いきなりだったから、ちょっと昼飯後でうとうとしてた。で、なにを見に来い?」
「タンポポ」
そう言ったら、分かった今いく、と聞こえて通信は途絶えてしまった。うとうとしてたのは本当みたい。忙しいんだか、暇なんだかヴァルの私生活は未だによく分からない。あれ以来、掃除してないからとレンタルハウスにも入れてくれないし、声掛けたら殆ど、っていうかほぼ絶対に相手してくれるけど普段一体なにをしているのかちっとも教えてくれない。同じ冒険者、って言ってるけどよく分からない。そもそも自分は自分の都合のいいときに勝手に連絡するのに、ヴァルはいつだって相手してくれるわけで。
今も、もしかしたら何かしてたのかな。
そう悶々としているうちにシグナルパールの魔力でヴァルが足下にワープしてきた。
「わり、遅くなった」
「ううん、いまきたとこー」
笑って言ったのになにがだよ、とか悪態つかれてヴァルは隣に腰を下ろした。
「ほら、寝っ転がって上見て」
腕を引っ張ると少しだけ困った顔をしてヴァルは自分の隣に寝転ぶ。
すぐにヴァルは隣でおぉ、と声をあげた。
「いいでしょ」
ちょっと得意げに言ったら、素直にいいな、と返されてちょっと照れくさい。ふわふわとたゆたう綿毛が顔の上に落ちてくる。それをふぅっと吹いてまた舞い上がらせて遊んだ。
隣で欠伸をするヴァルに気付いて顔を覗き込むと、慌てた様子で目をそらす。
「眠いの?」
「ちょっとな、ここ数日夜中出ずっぱりで」
そうなんだ。なにしてるの。
そうやって軽く聞けたらいいのに。
「クエこなしてたんだよな、あーやべえ寝そう」
「そうなんだ」
なんか、えっと。ほっとした。
なんていうか、ヴァルのあっち側を少しだけ垣間見たような気がして。
そして同じ冒険者なんだって思って、ちょっとだけ、安心して。
「寝ちゃおう」
「バカ言え、比較的安全な場所だけど寝るところじゃないぞ」
「だいじょうぶだよ、ぼく起きてるから寝てていいよ」
「バッカ、それじゃあオレが来た意味、」
「この風景みせたかったんだもん」
ヴァルの手を掴んで空を仰ぐ。
ヴァルも黙って同じく空を仰いだ。
「誰かと一緒にみられたから、ぼくはそれでいい」
こっちを向いたヴァルに笑いかけたら、そのまま顔が近づいてきて唇が重なる。そのまま抱き寄せられて、ヴァルの胸の中にすっぽりとおさめられると耳元で囁かれた。
「オレにみせたかったって言えよ」
「みせたいから呼んだんだよ」
そう言ったらヴァルは少しだけ首を横に振って、そうじゃねんだよ、と小さく呟いた。
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