「ごめんね」
なんか場違いな言葉が降ってきて、エルヴァーンの手が頬を撫でていく。
「ちょっと我慢して」
そう言うといきなり喉の奥に入り込んでくるアレ。苦しいとか痛いとか、そんな感覚じゃなかった。飲み込んじゃいそうなほど突っ込まれては音を立てて抜けていくソレ。
酷い、これは酷い。
ヒュームよりマシとかそんなことはなかった。
苦しくて変な声が沢山漏れて、もうやめて欲しくてやめてやめてって言ってみたところでなんか音をたてて、なんていうのちゅるん、っていうかじゅるっていうかそんな感じの擬音が見えて、唇からアレが離れていった。
あぁ、解放された。
そう安堵した瞬間に目の前に降りかかる粘度の高い、白濁色の液体。
「ちょ」
顔射。そうだよ顔射だよ。
どう思うよ。
「あ、でちまった」
言い返したいのに苦しかったりの連続で声にならない。荒い息だけが流砂洞に響いた。
ガルカが押さえ込んでいた腕をようやく離してくれたけど、もう身体支えるのも面倒でそのまま地面に倒れた。顔拭かなきゃ、早くしなきゃと思うのに長い間掴まれていた腕は麻痺したように動かない。ガルカが大きな手で拭いてくれたけど、もう全てを投げ出してそのまま地面に横たわって息を整えた。
なんでこんな事になったんだっけ。
ゆっくりと身体を起こして、口の中の違和感を必死で砂の上に吐き出した。
「大丈夫?」
だいじょうぶ、とか頭膿んでるんじゃない。
「いいからそのだらしない下半身しまってよ」
精一杯の強がり、ではなく、本当に視界に入ると毒。
エルヴァーンが装備をただしたところで、フレンドが固く閉ざされたアルテパゲートを叩いた。お約束なんだけど、本当にあと少し早かったらと思わずにいられない。
「お待たせ、ごめんよ長い事」
ゲート近くにいたヒュームが無言で扉を開閉し、夕日と共にフレンド達が到着する。自分を見て丁寧にお辞儀したフレンドのフレンドが凄く羨ましかった。
こんな新しい世界見たくなかった。
彼のいる世界と自分のいる世界は繋がっているのにとても遠く感じて、かぶりなおしたターバンをなおす振りをしてじわりと滲んだ涙を拭った。
「鼻の頭も目も赤い、擦っちゃダメだよ。砂漠を走らせちゃったからかな」
近づいてきたフレンドがそう言って撫でてくれた。
「砂がはいっちゃったみたい」
誤魔化して笑ってみせたらフレンドも笑ってくれた。
その後は淡々と仕事をこなして、いつもならあるハプニングも、デスシザーズで自分が戦闘不能に陥ることもなく、あっさりとツアーは無事終わった。彼のフレンドが今度こそ、とデジョンをかけてくれて祖国に戻る。
彼とあの三人はどんな繋がりなのかとか聞こうかとも思ったけど、もうその時点で自分の色んな限界が来てて謝って先に離脱した。レンタルハウスに駆け込んでバスルームに飛び込んでモーグリの心配そうな声を聞きながら冷たい水を頭から浴びる。
ここにきてようやく顎が痛いとか、肩が痛いとか、身体中のあちこちが痛くなって、ついでに心も凄く痛くて。でも泣きたいのに泣けなくてただシャワーの中蹲った。
心配したモーグリがバスルームのドアを蹴破って飛び込んでくるまで、流しても流しても落ちない汚れを必死になって擦っていた。
|