朝食代わりのサーモンサンドをふたつ買って飛空艇に乗り込んだ。前回一緒に乗ったときは、自分が拗ねて客室を追い出したんだっけ。こうやって一緒にご飯を食べるのも最後なのかなあ。
「なんかオレの顔についてる?」
「ついてないけど」
「オレが格好よすぎてみとれてた?」
自分が言っても冗談にしかならないのに、様になる種族だとナチュラルすぎて嫌味にもならない。いっそ清々しい。言葉を失ったままゴルディヴァルの顔を見上げていたら、彼は飛空艇のへりに手をかけたまま腰を曲げて視線を自分と同じ位置にまで下げた。
「どうしたの」
首を横に振って食べかけだったサーモンサンドを口に入れる。
説明出来ない複雑に絡まった感情。
自分がどうしたいのかも分からないまま、会話は途切れてしまった。
何も言い出せないままジュノに着水してしまって、足取りも重くゴルディヴァルと共にポートジュノに降りる。
その鏡は違う、探しているのは他の鏡だと言って欲しい。そしたら、このクエストには続きがあることになるから。これで終わりなんかじゃないから。
まるで死刑を宣告されに行くような気分で上層にのぼった。
いつもの女神聖堂の前を横切って、目を向けるのはルトがくつろぐ民家の軒下。街の喧噪の中、誰かと連絡をとっているルトは端末を耳付近に置いてなにやら難しい顔していた。
出直そう、そうゴルディヴァルの腕を掴もうとしたところでルトが自分たちに気がついた。
手を振られて出直すことも出来ず、端末を閉じたルトの元へと行く。
「おかえりなさい、どうだったかしら?その顔は、鏡がみつかったと考えてもいいってこと?」
察しのいいルトが相変わらず身体をくねくねとさせて喜びを表現した。
「そんな感じ、かな」
どうしようかとゴルディヴァルを見上げたら、彼も同じように見下ろしていて目が合った。
「まあ、見つかったというかなんというか」
「まぁ!ちょっとみせてちょうだい」
手を差し出したルトに、ゴルディヴァルが丁寧に包んだ割れた鏡を渡す。
瞬間的に何かを悟ったルトの笑顔が翳った。
「割っちまったんだ」
「なんですって?」
包みを受け取ったルトが慎重に布を開き、割れた鏡を確認する。
「せっかく見つけた鏡を割ってしまったというの?」
声にはガッカリした様子がありありと見て取れた。
あたりまえだ、ルトが必死で探していた鏡なんだから。
「ごめん」
そう自分が謝ると、ゴルディヴァルが横から口を挟んできた。
その鏡がサンドリアの商人たちの手にあったこと、鏡をジュノに輸送中、オークに襲われて奪われたこと。そしてその鏡が魔物に力を与えていたことを事細かに話した。ゲルスバで状況を打開するためにやむなく鏡を割ったことも、自分が無様に怪我したことまで。
「フリッツを助けるためだったのなら、仕方がないわ。危険だと分かっていたのに行ってもらったのだもの。責めたりできないわ」
気にしないでね、とルトは黙ってた自分の頭を撫でてくれた。
どうでもいいけど、結構みんな普通に自分を子供扱いするんだけど子供じゃないんで。ちょっと童顔なだけだから。
「魔物に力を与えるだなんて、恐ろしいわね」
ルトは鏡をもう一度丁寧に包み直すとゴルディヴァルを見上げる。
鏡はとても美しい品だった。ルトじゃなくてもみとれてしまうほどに。それ程までに魅力的な鏡だからやっぱり何かあるんだと思う。だけど、その謎を解くのは自分じゃない。
「それは預かっていて欲しい」
ゴルディヴァルがそう言い出すのを待っていたかのようにルトはゆっくりと頷いた。
「ヒビが入ってしまっているとはいえ、安心できないわね。慎重に扱うことにするわ」
「よろしくな」
二人がやりとりするのをぼうっと聞いて、そういえば病院に行くんだったと思い出した。
じゃあこれで、そう言おうと顔を上げたら突然ゴルディヴァルが導きの鏡を覗き込んで難しい声をあげる。
「あれ、導きの鏡に映ってるの」
その声に反応して隣にいたルトもゴルディヴァルの持つ導きの鏡を覗き込んだ。そして一瞬怪訝な表情をした後、おもむろにゴルディヴァルを見上げ何かに納得したように頷いた。
「あら、フリッツじゃない」
【えっ!?】
|