あの後、どうやって自分のレンタルハウスに帰ったのかとか覚えてない。
寝ても起きてもお尻に何かが挟まってるような気持ち悪さだけが残って、短時間のコンテンツにすら参加出来ない日々が続いた。ジュノにいるのに、何処にも出かけないまま時間はただ過ぎていって、後悔ばかりがつのった。
ルトは鏡の所有者の協力を得ることが出来たし、もう自分はいらない。ジュノにいる理由もない。
元々なんでジュノにいたんだっけ。それすらも忘れてしまった。
アトルガンに帰ろう、いつものように希望出して、ぼうっとシャウトを聞いて過ごそう。ようやくそう思い立って、だるい身体を起こした。熱は随分前にひいたし、お尻の違和感も大分薄れてきた。
動かないのはよくない。うん。
それにあれは合意だったし、やめようかって言ってくれたのに自分が続きを促した。
自己責任、ってやつだ。
白門帰ろう、って思ったらいてもたってもいられなくて、荷物をまとめてレンタルハウスを引き払った。上層のバタリア側付近に、サラヒム社の社員がいて社員なら300ギルで白門にデジョンしてくれる。彼に頼んでデジョンして貰おう。そう思って上層を走っていくと、女神聖堂を越えた辺り、そう、いつもルトと喋ってた辺りで呼び止められた。
名指しで。
「フリッツ!」
ルトの声だった。
視線を向けると、彼女が大きく手を振っている。
「ちょうど良かったわ。新しいお宝の情報が入ってきたところなの」
それはもう、彼がいるからいいんじゃないの。
自分はもう役に立てるようなことはないのに。
そう思ったけど、まだ自分を必要としてくれるのかな、とか、淡い期待をしてしまってルトの元へと駆け寄った。
「それは探してる鏡のひとつらしいのだけど、在処がどうもはっきりしないのよ」
「それを探せばいいの?」
「さっき、ゴルディヴァルを呼びに行った所よ」
聞き慣れない名前に首を傾げた。
「いやね、名前も聞いてなかったの?あ、ちょうど来たみたい」
ルトが自分の背後、ちょうど女神聖堂の辺りに向かって手を振った。
ゴルディヴァル、その名前の誰かが誰なのか、予想がついてその場から逃げたかった。
視線を合わせられないまま、軽くお辞儀して一歩下がる。
「さっそくだけど、お願いがあるの」
ルトはそう言ってゴルディヴァル、あのエルヴァーンにくねくねとして手にした羊皮紙をみせた。
なんとなく自分に対して何か言いかけた雰囲気があったけれど、ルトのお願いと、自分の態度がそれを遮った気がした。
「あなたの導きの鏡で、このお宝の在処について調べては貰えないかしら」
あぁ、やっぱり別に自分はいらなかったんじゃん。
たまたま通りかかったから、声かけただけで。
「…オーケー構わないぜ」
俯いたまま彼らのやりとりをただ聞いていた。
早く、帰りたい。自分が出来る事は、もうないんだって分かったから。
これ以上惨めになる前に、この場を去りたい。
「サンドリア方面だなぁ、でもこれ以上は分からないね」
「あやふやなのねぇ」
ルトが腕を組んでため息をつく。
「実はね、危険な種類の鏡だって話もあるの。だから、わたしも手を出しづらくって」
「そうなのか」
「けど、フリッツもいることだし、あなたたちならきっと大丈夫よね。確かめてきてくれないかしら?」
「え?」
思わず顔をあげた。
サンドリアに行けば、もう少し詳しいことを見ることも出来るんじゃないかしら、とルトは満面の笑みで言う。
いや、そこじゃなくて。
一緒に、自分も行くのか。
こいつだけで、大丈夫じゃないのか。だって、冒険者だろ。
言いたいことは沢山あったのに、何一つ言葉にならないままルトに送り出される。
「サンド行きの飛空艇、あと7分で出るぞ」
そう、ゴルディヴァルに言われて、どうしていいか分からないままようやくあの日以来、初めて彼の顔を見上げた。
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