Habit

 

 


 

 かみ癖。ヴァンの癖。

 

 かみ癖っていうと、爪を噛んだりするようなことに聞こえるが違う。
 射精しそうになると、ヴァンは自分の指を口に突っ込んで咬む。単純に歯を食いしばらないところは立派だが、咬むものがよろしくない。
 俺の目が腐っているのかもしれないが、ヴァンの手は小さくて綺麗だ。すらりと細く長い指となめらかな肌。形のいい爪がふとした拍子に目を引く。最初この癖に気づくまで、たまに指を酷く腫らしていて何事かと思ったが、何のことはない。自分で強く咬むからだった。
 どういう状況でこんな癖がついたのか、考えたくもないが何度言ってもなかなか治らない。
 だから癖というのだが。
「ヴァン、ダメだ。咬むな」
「ン、う、う」
 無理矢理口の中から手を引きずり出して、代わりに俺の指を下の歯に引っかけた。
「俺の咬んでいいから」
「や、らめ」
 変に強情で、人のものは絶対に咬まない。それは指もそうだし、アレもそう。アレって分かるよな。俺はあんまりヴァンにそんなことさせたくないのだが、ヴァン自身はそうされると喜ぶんじゃないかなという気分で仕掛けてくるからたちが悪い。
 腹が立つほど別の意味で躾の行き届いた子だ。
 あの首野郎は死んで詫びろ。俺に。
 そして結局自分の指が使えないと、唇を噛む。強く咬みすぎて、血だらけになることもある。もうその光景はスプラッタ以外何ものでもない。
 恥ずかしいから言いたくないけど、男ってのは結構血に弱い。それは冒険者でもだ。特に俺は自分の血も駄目だが、他人の血はもっと駄目だ。それがヴァンならなおさらで。
「唇も駄目」
 キスしてやると咬まないけれど、ちょっとした隙にすぐに咬む。このやろう。
「ふっ、ン、んぅー」
 結局俺の指を口に突っ込んだままフィニッシュ。顔中が涙と唾液で濡れて、苦しそうに喘ぐ姿に俺の良心が痛まないとでも思っているのだろうか。酷く乱暴している気分になる。
 それなのに、呼吸を整えながらヴァンは口に突っ込んだままの俺の指を丁寧に舐める。
「ね、もっかい、して」
 一晩3回目とか。おじさん明日腰が砕けそうです。
 それなのに、ヴァンが指を舐めてくるだけで俺は勃起する。そりゃ張り込みの連続で2週間近くご無沙汰だったというのもあるけれど、それにしても、元気だ。俺も、お前も。
 なぁ、お前今までに何回射精した?俺より多いよな。若いって素敵だねぇ。
 身体が熱いのは、戦闘の余韻も絶対残ってるよな。なんせ今日はあの人数だ。もの凄い燃えたよな。地面に伏した回数なんてもう覚えてないが、エルナが戦闘中勃起しそう、とか言ってたしみんな似たような高揚感を持ってるんだろう。まあ、あいつらは別の意味の興奮もありそうだが。
「そのまま、ン」
 笑いながらヴァンが腰を揺らす。
 唇を噛みしめる様子が見えて人差し指で咎めた。
「咬むなら、俺を咬んどけ」
 俺はヴァンの上に覆い被さり、頭を抱えて腰を深く沈める。
 ヴァンは息を飲むと少しだけ躊躇って、それから強く、ひたすらに強く。

 俺の鎖骨に噛みついた。
 

 

 

End