When You Wish upon a Star/Onslaught

 




When You Wish upon a Star


「なあ、気持ちいいわけじゃねえんだろ」

 背中を押さえつける手に僅かに力が込める。腰だけを上げた格好でシーツに顔を押しつけて、苦しそうにうるせぇ、と毒づいた男は、汗ばんだ額に張り付いた黒髪をうっとうしそうに指でのける。
「黙って、…く、動いてろ」
「俺は別にいいけどよ」
 かわいげのない態度にそう言って腰を進めると、筋張った手がシーツをぎゅっと掴んだのが分かる。強がってはいても、経験などないのは一目瞭然だった。
 骨張った身体、ぴんととがった長い耳。
 同族であるエルヴァーン、しかも男を抱くのは初めてで、硬い尻や筋骨たくましい腰を掴むのには些か抵抗がある。とはいえ、誘われて承諾してしまったのは、こいつを、もう少し知りたいと思ったからに他ならない。
「くそ、内臓が押し上げられる」
「そんな生々しい感想なんかいらねえから、可愛い声でも上げてろ」
 オイルが馴染んで僅かに余裕が出来たのか、吐き捨てるようにきめえ、と言うと、男はそのままクッションに顔を埋めた。当然だが彼の性器は全く反応を示さない。擦っても、扱きあげても、柔らかいままのそれに、不意に片思いの相手を思い出した。
「苦しいだけでキモチよくねえ」
 そのぼやきは、誰を思い浮かべている。
 多分今こうやって身体をつなげ、肌を重ねていても、お互い思い描く人物はお互いではなく、別の男だ。
「ヘタクソが」
「ああん?」
 馴染むまでと手加減してやったことも知らずに男は憎まれ口を叩く。先ほどまでゆっくりと進めていた腰を、一気に突き入れて腰だけを高く持ち上げた。呻き声と低い悲鳴。
「調子に乗るなよ」
 振り返ろうとする頭を押さえつけ、前立腺を狙って内側を擦り上げていく。
「うあ、あ、やめ」
 屈辱的な格好で、他人の男を受け入れる行為。
 何故この男が誘ってきたか理解出来ないが、この男なりに理解しようとした結果だったのかもしれない。それでどうしてこの自分を選んだのか、こういう行為を望んだのかやはり理解し難いが。
「つ、あ、そこ、ダメ」
 同じ黒い髪に、別の誰かを写す。
 もっと細くて、華奢な、誰か。
「くそ、…なんか、なんだこれ」
 男が苦しそうに唇を噛みしめるのが分かった。
「そこ、おぼえとけ」
 反応のいい場所をピンポイントに責め立てれば、男の身体は面白いように跳ねて、自分から逃げるように這いずった。その腰を掴んで引き寄せて、同じ場所を執拗に突き立てると、普段のスカしたこの男からは想像も出来ないような喘ぎ声が零れた。
「い、いい、くそったれレヴィオ、出る、あぁ」
「名前呼ぶなクソ、が」



 シャララトでアルザビ珈琲を両手で持ち上げ、そっと唇をカップに付ける。
「…夢でよかったね」
「まったくだ」
 銀色のトレーから俺の方へとシュトラッチを寄越してレヴィオはため息をつく。
「願望、だったりして」
「やめてくれ気持ち悪い」
 トレーを持ったままその会話を聞いていたツェラシェルが俺を見下ろしてそう吐き捨てた。俺の向かい、丁度レヴィオの隣に腰を下ろしたツェラシェルは、同じようにトレーにのったイルミクヘルバスを俺に寄越す。
「そんなに食べられない」
 トレーに乗せられそうになったイルミクヘルバスを慌てて手のひらで押し返した。その様子を見ていたレヴィオが隠れて笑っているのをツェラシェルが睨みつける。
「お前責任とって半分喰えよ」
「なんの責任だよ」
「うるせえな、変な夢の話で食欲削がれたんだよ」
 イルミクヘルバスを丁寧にスプーンで半分にわけて、珈琲の入ったマグカップのソーサーに取り分けるツェラシェル。半ば強引に押しつけられたレヴィオもまんざらではない様子で、シャララトの一角はなんとなく暖かな感じに包まれた。
「楽しそうだな」
「いや、なんかいいなって思って」
 口元が勝手に綻んでいく感覚。
「こういうの、憧れていたんだ」
 俺はそういって、彼らに笑った。





「っていう夢をみたんだ!」
「……仲良くして欲しいってことだけは分かったわ」
 ルリリはそう言って小さな手を額に当ててため息をついた。
 星に、願いを。

 

 

終わり