Q079.Schedule management/Onslaught

 



 

 男所帯で抑圧された環境にいる修道士は、一度思い通りになる玩具を手に入れるとああも理性というたがが外れるのかと思った。アルノーの性癖はともかく、今までそんな片鱗すら見せてこなかった奴らが、こぞって我先にとありとあらゆる行為をエスカレートさせていった結果がこれだ。ため息が出る。
 うつ伏せに寝かせたカデンツァの肩は大きく腫れていた。
「楽な姿勢でいいぞ」
 頷きもせずカデンツァは涙に滲んだだ目を細めた。吐息は熱っぽく、荒い。
 水を含ませた草布をそっと肩に当てた。引き締まった、というより単純に痩せぎすの背中が痛みに跳ねる。
「は、う」
 拘束などしなくともカデンツァは抵抗などしないだろうに。
 変な角度と体勢で拘束されていた腕。多分だが掴みあげたのだろう、いくら小さな体とはいえこんな細腕一本で体重が支えられるはずがない。傷めた肩は深刻だ。
 クソったれな下っ端修道士たちはカデンツァをそうやって散々弄んだあと、ぐったりしたまま動かないのを見て焦り、俺を呼び出した。不本意だったがカデンツァは来週に控えたサンドリア国教会シンポジウムに出席する某氏との謁見に向けて目下のところ「調整中」だった。目的の是非はともかく、そういった大きなことが控えていた場合、カデンツァの待遇は目に見えて良くなる。ゆっくり休ませることも出来るし、無茶だと俺が判断すればたとえ相手がシャマンドであろうとも行為を中断させる権利がある。
 アルノーは大事な「商品」に傷がついたことを怒るだろう。
 目を離していた俺の管理不届きも当然指摘されるはずだ。それならシンポジウムの担当責任者を別の人にしてくれと言いたかったが、忙しいのは理由にならない。
「ごめんなさい」
 カデンツァが小さくそう呟いた。
「もしかして断ったのか」
 返答はなかうた。無言の肯定だ。
 シンポジウムを理由に断ったカデンツァを無理矢理納戸から引きずり出し、暴行を加えた修道士ども。仮にも神に仕えるやつらのすることか。
「悪かった」
 カデンツァは何も言わなかった。
 結果、伝え方がよかったのか俺は怒られはしたものの、処分はくだんの修道士たちが受けることになった。
 隙を突いて怒りが収まらないアルノーを上手くつつき、他者の目につかないことを条件にシンポジウムの担当手伝いとしてカデンツァを起用し、期間中常に目の届く場所に置いた。
 若いからかカデンツァの肩の腫れは痛みは残るものの数日でひき、アルノーの怒りもまた収まった。
 この一件で、俺はカデンツァのスケジュールマネジメント(SM)を強化するに至る。

 

 

 

End