Q058.Sexual desire/Onslaught

 



 性欲は薄い方だと思う。
 むしろ、性行為に対して抵抗すら感じる。
 いけないことをしているような、罪悪感に似た、背徳感をも連れてくる複雑な感情と言うべきか。
 要するに俺自身ですらその気持ちに名前をつけることが出来ない、もやもやとした言葉で表せない何か。
 昔、半ば義務のように求められて抱いた女の感触はお世辞にも気持ちいいものではなくて、何故か行為の最中に違う、しかも男の、顔を思い浮かべていた。
 多分その時から。
 自覚したのは最近。
 キスやスキンシップは意外と普通。だけど一線は越えない。意識しているわけじゃない。
 自分でもよく分からない。

 ”愛しているなら、触りたいとか抱きたいという気持ちくらい持つでしょう?”

 それすら分からない。
 愛してる。だから、抱きしめる。
 細い首筋に頬を寄せて、華奢な肩を抱き寄せる。
 そうしたら、小さな手が俺の頭を撫でてくれる。
 これが幸せでなくてなんなのか。
 身体だけが愛を確かめる手段ではない。身体を手に入れる事だけが愛ではない。
 性欲なんてどこからわいて、何処へ消えていくのか、俺には分からない。
 ここまで俺の前提と言い訳。
 カデンツァは、そんなこと分かってると見透かしたように俺に微笑む。
 絡めた指と指。
 俺を引き寄せる細腕。
「レヴィオ、しよう」
 ま、なんだ。
 色々言うけど理性って案外簡単に吹っ飛ぶ。
 二人分の体重を受け止めたベッドが悲鳴を上げて、夜はただ、更けていく。
 


 

 

End