Q044.not loved.../Onslaught

 



 空活動中、移動の中継地点となるアビタウ神殿前でカデンツァが一人鞄の中身を引っ掻き回していた。
 何か忘れものでもしたのかと思って.どうかしたのかと声をかけたら深紅の瞳が真っ直ぐに俺を見上げた。オイルやパウダーなら余分に持っていることを伝えたら、違うという。
 なんとなく詮索されたくないんだな、という雰囲気は伝わってきたものの、足を止めてしまった以上なかなか立ち去るタイミングをつかめない。リンクシェルからはヴェルガノンやアビタウからの他リンクシェルの動向やノートリアスモンスターの情報がひっきりなしに聞こえてくる。俺の役割だったファウストは既にシーフが向かっていて途中でお払い箱にされた。
「なあ、カデンツァ」
 リンクシェルでは別働隊がスチームクリーナーを見つけたらしく、偉そうなエルヴァーンの男が指示を飛ばす。
「何」
 高度が高く空気が澄んでいるからか、カデンツァの声が鋭く響く。
「終わったら飯でも」
「ああ、やっぱりロッカーに置いてきた」
 狙ったように遮られて、カデンツァが珍しくため息をついた。
「何を忘れたんだ」
「バーミリオ」
 お前が今着ているモリガンはなんなんだと言いかけたが、付与されている魔法効果の話ではないことを思い出しギリギリで言葉を飲み込む。ついでに最近カデンツァが普段着をバーミリオクロークからイクシオンクロークに切り替えたことを思い出した。
「イクシオンは持ってきてないのか」
 深紅の瞳が無言で俺をじっと見つめて、そしてややあって鞄の底からイクシオンクロークが取り出される。
 ついでのように何かが鞄から出てきて、そっと手渡された。
「なんだこれは」
「知らないのか、魔よけ」
 イクシオンクロークを羽織ながら冷たく言い放たれる。
 いや、サンドリアでの常識ではあるが俺が言いたいのはそうじゃなくて、この7枚という中途半端な蝙蝠の翼のことであって、用途を聞いているわけではない。
「あげる」
 そう言って、カデンツァは走り出す。
 多分、というか間違いなくゴミを押し付けられたのだと思う。
 蝙蝠の翼を握りしめながら、俺は小さくなっていくカデンツァの背中を見送った。

 


 

 

End