Q032.Fickleness/Onslaught

 



 

「俺があんたとキスをすることにそれ以上の意味があるの?」

 そう言われて愕然とした。
 最初は単純にちょっとからかい気分で顔を近づけた。
 どっちをからかったか、なんてどっちもに決まってる。どちらかというと朱いトサカ頭のエルヴァーンに軍配があがるが。
 カデンツァにギリギリ唇を寄せて、まるで今にも恋人にキスするかのように顔を傾けた。
 だがカデンツァは表情ひとつ変えずに、また避けることもなくそのまま俺と話を続けた。唇と唇は触れあう寸前。どちらかが唇を僅かに突き出せば触れる、そんな距離だったのに。
「なんで避けないんだ、このままキスするぞ」
 反応をみて楽しむつもりだったのが、当てが外れて気分を害す。
 身勝手な話だ。
「すれば?」
 戦術の話を途中で止めて、じっと深紅の瞳が俺を見上げる。
 返ってきた言葉にトドメを刺された気分だった。
「俺があんたとキスをすることにそれ以上の意味があるの?」
 僅かな沈黙の後に、ないだろ、と言わんばかりに目を伏せられて、じゃあ後は戦闘中に聞いてと短い言葉でカデンツァは俺の前から立ち去った。
 キスにキスという行為以上の意味はない。
 そこには俺に対する感情などない、と、これ以上ないほどの振られ方だったというわけだ。
 後に残るのはかっこ悪い俺と、心の底にたまったばつの悪さ。
 

 


 

 

End