Q011.Nickname/Onslaught

 



 

 


 あいつはとても親しげにカデ、と呼ぶ。
 カデンツァはそれを普通に許容する。
 眠ったカデンツァを背中から抱きしめて、耳元で囁いてみる。
「カデンツァ」
 俺にはこれが精一杯で、どうやってもあいつのように親しげに呼べない。
 俺には負い目がある。考えないようにしていても、それはどこかで俺の行動を制限する。
 愛称というのは、立場が対等でなければ呼べないものだ。
 俺はどこかで俺とカデンツァは対等ではないと思っている。
「愛してる」
 俺の腕の中におさまる小さな身体はとても華奢で、多少の肉付きは認められるもののあの頃と何一つ変わっていない。
 鼻をその首筋に擦りつけて肩に口付ける。
 ほのかな石鹸の香りが鼻腔をくすぐった。
「れびお」
 俺の名前を呼ぶ。
 寝惚けているのか発音が若干怪しい。
 それでもカデンツァは俺の名前を呼んでくれる。
「レヴィオ」
「ごめん、起こした」
「あつい」
 抱きしめていた俺の腕をはねのけたカデンツァは、枕を引き寄せるとまたすぐに眠りに落ちた。
 ちょっと泣きそうになったけれどおやすみ、カデンツァ。
 本当に、本当に愛してる。


 

 

End