Q009.Dislike/Onslaught

 



 


 信仰は狂気だ。
 これは同じ大聖堂にいた男の台詞。
 軟禁しておいてなんだが、逃げ出そうと思えばいくらでも逃げ出せた環境でありながら、カデンツァは自ら囚われの身となった。
 カデンツァの信心深さを逆手に取って利用したアルノーにも反吐が出るが、信仰にすがりついたカデンツァを俺は内心苦々しく思っていた。
信仰で腹はふくれない。
 俺は大聖堂に勤務するそれなりの地位の修道士でありながらも信心深さにおいては底辺だったと言ってもいい。俺にとってアルタナへの祈りは明日への糧でしかなかった。だから余計に自らを大聖堂という猛獣の住む檻にがんじがらめに縛りつけたカデンツァを理解することが出来なかった。
 あんな状況にありながらもカデンツァはよく働いた。
 大聖堂はアルタナ教の総本山として、聖堂の門扉だけはいつ誰が訪れてもいいよう祭祀が執り行われる日以外は開けている。夜中であろうと必ず交代で誰かが聖堂を開放していたわけだ。その際にヒュームの自分が誰かの目に留まれば大聖堂の威信に関わると、カデンツァはなるべく訪れる人の目に留まらないよう心がけた。
 俺にはわからないことだらけだった。
 何がカデンツァをそこまでさせるのか。
 アルタナという偶像にすがって、お前は何かひとつくらい救われたのか。
 何度も問いかけたい気持ちになったが、日増しに表情が消えていくカデンツァをみて最後まで俺は聞けずにいた。どこかで安らぎを得ていたと思いたかった。救いなどなかったと否定されるのが怖かった。
 散々弄ばれ気を失うように眠ったカデンツァの手を握ると、強く握り返された。
 無意識だ。心臓を鷲づかみにされたみたいで胸が痛んだ。
 偶像でもいい。心のよりどころが必要なのだと気付いたのはそのときだったと思う。
 俺はカデンツァを管理することで、カデンツァは俺の手を握ることで。
 よりどころかどうかは分からない。
 だけど俺たちは確実にお互いに依存していたのだと思う。
 このクソッタレな大聖堂で過ごすために。


 

 

End