Q006.boy meets girl/Onslaught

 



 

 わたしがカデンツァと初めて会ったのは、ツェラ様がカデンツァをリンクシェルに連れてきたその日だった。
 偶然レベリングから戻ったツェラ様を六門院付近で見かけて、ラッキーとばかりに声をかけた。だから多分リンクシェルの誰よりも先にカデンツァと顔を合わせたと思う。
 ツェラ様がわたしをカデンツァに紹介してくれて、カデンツァはわざわざタルタルのわたしのためにしゃがんでくれた。 わたしはタルタルだったから、緋色のクロークで隠れたカデンツァの顔を下から見上げる形で見ることが出来た。
 カデンツァはリンクシェルにいるヒュームの誰よりも小柄だったから、いつもクロークにうつむき加減のカデンツァの顔をじっくり見る機会なんてそうそうなかったように思う。
 覗き込んだ顔は、監視哨でよく見かける不滅隊と同じように青白い、血の気のない色。それなのに不釣合いなほど整った派手な顔立ち。
 絶世の美人、なんて言葉が頭をよぎったくらいカデンツァの造詣は整っていた。
 よろしく、といって手を差し出してきたカデンツァの手はやっぱり冷たくて、まるで死人みたいだって思ったことも覚えている。失礼な話だけれど、この人は本当に生きているのかしら、やっぱり魔物なのかしらと思うほどカデンツァは浮世離れしていたってことだった。
 耳に届く声は高くもなく、低くもなく、感情のあまりこもらない、抑揚のない声だった。
 それからカデンツァとわたしはすぐに仲良くなった。
 仲良く、というと語弊があるけれど、ツェラ様がカデンツァをかまうので、わたしがそれに便乗してツェラ様にかまってもらっていたというのが真相だ。カデンツァは気付いていたと思う。
 それでも最初ほど淡々とした印象はなかった。
 カデンツァはリンクシェルの他のメンバが言うような反応の薄い子ではなかったし、言われているほど感情の起伏に乏しいというわけでもないように思えた。わたしには普通に悪態をつくし、ナイズルやアサルトに参加したときの愚痴めいた話もしたりした。競売で高騰している商品や金策など普通の冒険者が話すようなこともよく話題にのぼったし、一緒に甘いものを食べたり、有名どころに食事に行ったりもした。だからわたしにとってカデンツァは普通の若い男の子であり、よき友達だった。
 このあたりの話はツェラ様もすごく驚いていたけれど、わたしはリンクシェルの誰よりもカデンツァとよい関係でいたと思う。
 うそをついてカデンツァを追い込んだことはもちろん反省しているし、酷い怪我を負わせてしまったことを後悔している。でも、それがあったからこそ、わたしとカデンツァはもっといい関係になった気がする。
 もちろん、言い訳も含む。
 ツェラ様がカデンツァのことを好きなのは結構前から気付いていた。
 男同士なのにとかそんな感想はなくて、世話好きのツェラ様だからほっとけない感じのする子がいいんだ、なんて泣いたこともあった。
 結局カデンツァにはレヴィオさんっていうよい人がいて、多分、多分よ。ツェラ様は振られたのだと思うのだけど、わたしもやっぱりアイドルの追っかけ的なことをしていたのかも、とそのときに気付かされた。
 今でもツェラ様が好きだけれど、わたしはなんだかんだでこの関係が続いてくれることを望んでる。
 カデンツァがいて、レヴィオさんがいて。
 傍にツェラ様がいて、わたしもそこにいるの。
 わたしとカデンツァはよい友達で、ツェラ様とわたしもまた友達なんだって。
 わたしはそれでいい。そう思った。
 だから神様、カデンツァをまだつれていかないでください。
 シュトラッチよりも美味しいお菓子を、わたしが手作りできるようになるまで。
 サーモンサンドすら満足に作れないわたしにそんな日は絶対来ないから、このままの日常がずっと続くのだとわたしは信じてる。

 


 

 

End