Q5.Partner's character?/Onslaught

 



 知り合いとの待ち合わせのために、珍しくジュノ下層に足を運んだ。
 昔は下層も人でごった返していたものだが、今では港の喧騒を逃れてきた冒険者が競売や買い物、合成とまったりと過ごしている気がする。時計を確認すれば待ち合わせの時間まで結構あった。天気も良く、潮風も心地いい。座れる場所を探して競売の上にあがったら、懐かしいタルタルに声をかけられた。
「おにいさん、そこのおにいさん」
 水晶玉越しに俺を見つめるタルタルは占い師だ。
 かなり昔、恋の占いはどうかと声をかげてきた癖に彼自身の恋を手伝わされた経緯がある。うまくいってるのかと訊ねるのは諸刃の剣かやぶ蛇か。
「占ってかない?」
 含みを持った笑顔が水晶玉に拡大されて奇妙に映る。
「なんだよ、暇なのか」
「暇、もう暇すぎて死ぬ。大体最近相性占いするような純真なカップルがいないんだよね」
 商売上がったりです、とタルタルはお手上げのポーズをとって見せた。
「で、俺にお前の今日の晩飯代を出せと」
「まあ、そういうことです」
 なんとなくタルタルにのせられて、しょうがねえなと悪態をつきながらも500ギル渡す。晩飯と言われて断れるわけがない。
 大体俺が占いとか信じるように見えるのかどうかという話だ。タルタルにとって占いの結果などどうでもよく、金を取れるかどうかを見分けているに過ぎない。あとは調子よく望まれた「占いの結果」を仰々しく言葉にするだけだ。
「毎度」
 渡した500ギルを大切にしまってタルタルは水晶玉に向かう。
 集中して一点を見つめるタルタル。
 俺にはただの水晶玉にしかみえないが。
「おにいさん、好きな人がいますね」
「は?」
 思わず聞き返した。
「んん、どうやらすごい美人のようですね。ちがいますか?」
 なんだそりゃ、と誤魔化したつもりが動揺したのがバレたらしい。タルタルは楽しそうに水晶玉をもう一度覗き込んだ。
「ん。一見何を考えているか分からないけど、純真で子供のような人です。おにいさん相当惚れてますね。プレゼントは海産物がよいとでてます、真珠とかでしょうか」
 さらにタルタルは水晶玉に近づいて、水晶玉には間延びしたタルタルの顔が不気味に映りこんだ。
「お勧めデートスポットは海蛇の岩窟。本日のおにいさんのラッキーカラーは薄青色、ラッキーアイテムは陸蟹のふんどしです」
 一気にまくし立てるようにタルタルはそういうと、水晶玉から顔をあげた。その顔はどう、当たっているでしょうと自信ありげだ。タルタルは俺が口を開こうとするのを遮って、企業秘密です、とだけ言って手を差し出した。
「なんだ」
「なんだって、もう、察しが悪いなぁ、おにいさんは。振られますよ。当たったらご祝儀でしょ、ふつう」
 さらっと恐ろしいことを言う。縁起でもない。
 結局俺はタルタルにご祝儀分の1000ギルを上乗せして支払い、まいどあり、という暢気な声を聞きながらなんとも言えない気持ちでその場を後にした。
 

 

 

End