Q2.How old are you?/Onslaught

 



 来週はレヴィオの27回目の誕生日だ。
 誕生日といっても、多分俺の想像だけれどその日はレヴィオの本当の誕生日ではないのだと思う。ルリリに誕生日を聞かれて一瞬自分の冒険者証を確認していたから、その日はレヴィオにとって「登録に必須だから適当にでっちあげた」日でしかないのだろう。
 覚えていられないほど、思いつきで書き込んだ誕生日。
 レヴィオは戦災孤児だと聞いているから仕方がないところもあるのだろう。
 この世界では意外と誕生日を求められる事が多い。
 自分が誰かを証明するのに、名前と誕生日は非常に重要だった。だけど、その情報は適当にでっちあげた情報でも誰も分からない。誰だって生まれた日の記憶などない。それが本当かどうかを証明するものはなにもない。いわばレヴィオを構成しているのは嘘の情報で、その気になればレヴィオは誰でもなく、誰にだってなれる。
 それは俺にも言えて、今俺が名前を変えて新しく冒険者登録したら別人に。
 俺は顔が割れすぎて無理か。
 とにかく俺たちは自分が何ものかを名前や誕生日といったどうとでもなりそうなもので作られている。だから名前や誕生日は意味のあるものにしたい、と願う。特に、人か魔物かで自身の存在に揺れた俺はそう思う。人であろうが、魔物であろうが、俺は俺。
 だから、覚えてもいられない誕生日という日付が何か意味のある日であればいいと思う。
 まあ、どうしたらいいかなんてちっとも思いつかないのだけれど。
「カデンツァ、あなたレヴィオさんに欲しいもの聞いたの?」
 打ち合わせのためにシャララトに集まってああでもない、こうでもないと何一つ決まらないまま時間だけが過ぎる。ルリリが手元で拡げていたアルザビ情報誌から顔をあげて俺に聞いた。
「これといって特にない、お前が居るだけで俺はそれでいいよ」
 レヴィオの言葉をそのまま口に出せば、ルリリはあからさまなため息をついて頭を振った。
「レヴィオさんっていまいち本心が分からないのよね、あなたが分からないならわたしたちに分かるわけがないわ」
「むしろお前が、」
 と、今まで聞き手に回っていたツェラシェルがそこまで言って口を噤んだ。
 続く言葉はよく分からないが、視線をテーブルに移してばつが悪そうにしたその態度で碌な続きではないことくらいは俺にだって分かった。
「ケーキはこの店にしようと思うの」
 空気を読んだルリリがその場の雰囲気をあっさりと流す。俺もツェラシェルもルリリの手元を覗き込んだ。
 美味しそうなふわふわのスポンジケーキとたっぷりの生クリーム。チョコレートとカスタードに埋もれた色とりどりのフルーツが間違いなくルリリの趣味。レヴィオはチーズケーキが好きだと先週伝えたはずだったけれど、ここは素直にルリリにしたがっておいたほうがいいのだろうか。なんとなくツェラシェルに視線を向けると多分同じようなことを考えていたのだろうか、珍しく目が合った。
「ルリリ、その件なんだが、ケーキはあてが出来た」
「そうなの」
「そうなんだ」
 急に言い出したツェラシェルの言葉に思わずルリリと言葉が重なった。
「その、知り合いが、旧知の仲らしくて、そういうことならケーキを作るよと」
「そうだったの」
「折角だから、一緒に来たらいいのに」
 その知り合いが誰かすぐに分かった。言葉を濁すわけも。
「じゃあ、ホームパーティはどうかしら。みんなで食事を少しずつ持ち寄るの」
 それなら色んな人を気兼ねなく呼べるわ、とルリリは提案した。
 そこから無駄に盛り上がった計画は割愛するけれど、結局俺たちは何もない俺の部屋を会場にしてささやかなホームパーティをひらいた。小さい頃に作った飾り付けや色とりどりの食器、冒険者協会から貰った怪しげな小道具を総動員して、レヴィオと交友関係がありそうな人に片っ端から声を掛けた。
 8割は来てくれたと思う。レヴィオは少しだけ困ったような顔をしながらも、「本日の主役」と書かれたエッグヘルムをかぶって楽しそうに笑った。
 深夜、ようやく宴が終わって酷い有様の部屋に二人残った。
 片付けは明日かな、と床に転がったカップをひろって振り返る。
「俺、誕生日パーティとか初めてだ」
 ありがとう、そう言ったレヴィオに俺はうまく笑えたか自信がない。

 

 

 

End