白の呪文/Onslaught

 




 全ての始まり日、俺は自分の雇われた理由を、嫌と言うほど身体に覚え込まされた。

 その後は、常人の、思いつく限りの、ありとあらゆる事をされたと思う。最初はただの性欲処理だった行為も、時間の経過と共にただ突っ込むことに厭きた彼らは、色んな事を思いついては仕掛けてきた。
 無茶苦茶されることも多く、多人数による遠慮のない責め苦で、俺が玩具のごとく壊れてしまうのを危惧した偉い人が俺に与えたのは、世話役という名のを監視者だった。
 彼は俺の負担になりすぎないように、行為の間隔や回数を抑制した。そして可能な限り、彼はその行為の一部始終を、傍らでじっと見ていた。お陰で随分と無茶をされる事は減ったが、その代わり俺は第三者の目にさらされて行うセックスという余計なことを学ぶことになる。

 彼が俺にしてくれたのは、仕事のスケジューリングだった。
 彼の存在が、俺が何故雇われて此処に存在するかを深く身体に刻む。

 結局の処、置かれている状況にも、されている事にも変わりはない。
 石畳に転がされた身体は、指一本動かすことも出来ずただ息をする。
「たてるか」
 暗闇から近づいてくる声。
「見たら分かるだろ」
 掠れた声でそう言うと、聞き慣れた彼のため息が聞こえる。彼は、レヴィオは最初からこんな予感があったのだろうか。だから、あの日、大聖堂を訪ねた俺に哀れみの視線を向けたのか。
「縛るなとちゃんと言ってあった」
「へぇ」
 背中側できつく縛られた両手首は、食い込んだ荒縄の感触だけが残る。レヴィオが背中側に跪き、俺の戒めを解いた。開放感と、強い疲労感。
「すまない、用事で遅れたんだ」
「別に、いてくれと頼んだ覚えはない」
「カデンツァ」
 震えた声が俺の名前を呼ぶ。
「うるさいな、名前を呼ぶな」
 疲弊した身体を投げ出したまま、肩で息をする。正直レヴィオに返事するために唇を開くことすら怠い。何人ものペニスを頬張って、顎が筋肉痛にでもなりそうだった。
 比較対象は自分でしかないが、エルヴァーンのペニスはその身体の大きさに比例して大きい。咥内を埋め尽くされると呼吸すらままならない。それなのに彼らは、俺のことなんかお構いなしに頭を、───酷いときには髪の毛を、酷く乱暴に掴んで揺すりたてるのだ。
 歯なんかを引っかけた時には、何をされるか分かったものじゃない。自分の置かれた状況から考えるに、彼らは俺の歯を全部抜くくらいのことはやってのけるだろう。それはちょっとした恐怖だ。
「眠い」
「目を閉じてろ、運んでやる」
「まだ、なかにたくさん」
「じゃあ、すぐ出せ」
 簡単に言うレヴィオに軽い殺意を覚えた。
「身体、動かないって言った。あんたがやってくれないならこのままでいい」
 ああ、ほら。またため息だ。
 レヴィオは俺を座らせ、背中を自分の胸に預けさせると手慣れた動作で脚を割り開く。こんなことをされる俺も、させられる彼も、やっぱり可哀想だ。唇を噛んで、その指の感触を押し殺す。嫌な音をたてて、内側から溢れた何人もの男の精液が、彼の指を伝って石畳に零れた。
 確かめるように内側を広げられ、もうでない事を知ると、その指は引き抜かれる。
 動けるなら、この石畳の掃除は俺の仕事だ。
「掃除はしておく、寝ていいぞ」
 ほら、この男はこんなにも優しい。

 俺はたった一言、ありがと、と呟くと薄く笑って目を閉じた。
 
 

 

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