PMB→Dolce/Onslaught

 




 重なり合った唇。
 絡まり合う舌と舌。ツェラシェルの唇が、血で汚れていく。
 味覚なんてとうにない。だからツェラシェルの吐瀉物なんか気にもならない。いやむしろ、それすらも貪るのが俺なのだと。血の味で痺れてしまった舌先が、ツェラシェルの咥内を舐める。静かな樹林に響くのは、絡ませ合う舌のたてた水音と荒い息づかいだけだ。
 うまく息が出来ないのは唇の用途が違うから。
「クソ」
 なすがままだったツェラシェルの手が俺の後頭部を押さえた。引き寄せられ、今度は貪られる。
 俺が、喰われる。
 咥内に入り込んでくる舌は、ラミアのように熱くて、少しだけ強引だった。息をつく暇もなく、重ねられた唇の隙間から息を吸う。背中に感じる土の感触に押し倒されたことを知った。
 枯れた葉がもつ独特の匂いが鼻孔を掠めた。
「あっ、ァ、はっ」
 赤い鞣し革で作られたこの地方特有の装束は、身を守ることよりも動きやすさを重視して作られている。とはいうものの、軽くて丈夫な皮鎧は従来品の比ではなく、幾度もこの身を守ってきてくれた。
 その鎧の下を這う手。外された留め金と装飾が擦れて小さな金属音をたてる。
 弛められた革紐、鎧ごと身体を分解されていくような感覚。
 口付けられたまま腰を抱えられ、下衣の中に差し入れられた手は尻の割れ目をなぞった。膝の間に入り込んだツェラシェルの身体が太ももを押し上げて、急所を覆う皮を擦る。身体ごと揺すられて、指を受け入れていく身体。唇の間から零れていく呻き声は本物だ。
 せめてオイル、と思うのはぬるいセックスに慣れすぎたせいか。
 痛いのも、苦しいのも、ツェラシェルの唇に吸い込まれていく。押し込まれていく指の形をはっきりと意識して腰の後ろがじん、と痺れた。熱っぽい吐息が零れたのをツェラシェルは見逃さない。
「あぁ、クソ」
 それはこっちの台詞だ。
 勃起したツェラシェルの性器が股間を擦っていく。下衣を膝まで下ろされて、剥き出しの性器が外気に触れると、そのひんやりとした感触に思わず身震いした。ツェラシェルは器用に下衣の隙間から性器を取り出すと、俺の性器と擦り合わせるように腰を揺らす。
 服越しではない、直に触れる肌の生温かさ。
 先走ったもので濡れるツェラシェルの性器はやけにリアルだ。
 快楽に詰まった息を吐き出すと、切羽詰まったようなツェラシェルが腰を押し進めてきた。膝にたまったコッシャレが、これ以上足を開くことを拒む。
 指を引き抜かれ、先端を押し当てられても、これがセックスだという実感はなかった。
 俺にとっては、これも食事の延長だったから。相手が誰であろうと、それこそ男でも、女でも。抱くほうでも、抱かれる方でも、それは『食事』だった。
 嫌な言い方をすれば、デザート。
 それは食後の満足感を、より高め、強めるものだ。後にも先にも、それでしかない。
 唇が離れた。
 赤く濡れた唇が離れていくのを目が追う。次の瞬間、下肢に慣れた衝撃が走った。思わず呻くと、ツェラシェルの大きな手が俺の口を塞いだ。くぐもった呻き声がツェラシェルの手に吸い込まれるようにして消えていく。息苦しくて何度も喘ぐとタイミングをあわされて腰を押し進められた。苦しくて目の前に涙の膜が張る。腕を伸ばすと、滲んだ視界にやけに鮮明にうつる赤い唇が俺の指を咥えた。
「ん、う、う」
 断続的な呻き声。ツェラシェルの腰が深く沈むたびに押し出されるように喉から声が零れた。
 揺れる膝。舐められ、吸われ、しゃぶられる指。身体の奥深くで燻っていた衝動がツェラシェルの熱で溶かされ、ほぐされていく。俺はこうやって、生きているものをこの身体で喰らうのだ。
 これはセックスじゃあない。
 これは『食事』の延長なのだ。

 ────やがて俺の快楽とは程遠い場所で、ツェラシェルの熱が弾けた。

 

 

 

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