Departures/Onslaught

 




 内臓ごと、愛されてる。
 馬鹿げた事を思った。手首に食い込む爪は、動きが加速する度に深くなっていく。
 体内に吐き出された体液は熱を持ってじわじわと俺自身を蝕んだ。最早入り口と言っても過言ではない程そうして使われた身体の出口を酷くこじ開けられて、性器なのか触手なのか分からないような異物がまるで滑り込むように複数入り込んでくる。その度に、あり得ないほど膨らんだ腹がうねるように動いた。
 俺の身体はよく壊れないものだと、少し感心する。
 緩急を付けた動きが加速していくのを感じて、気持ちいいのかな、と思った。こんな姿になっても、俺に突っ込んで、かき回すと気持ちいいのか、とか、人も魔物も、似たような快楽を得たりするのだろうか、とか考えた。
 よく分からない。
「うぁ、あっ」
 突然咥内に差し入れられていた舌のようなものが引き抜かれ、直後生温かな液体が俺の顔に音を立てて落ちてきた。酷く、生臭い液体。解放されて新鮮な空気が入り込んできたというのに、その臭いに負けて噎せ込んだ。腕を掴んでいた手は離され、代わりに俺の腰を強く掴む。
 上体を起こし、浮いた俺の尻に何度も何度も強く腰を叩き付けてきた。そんなことしても、最早深く入るとかそういう問題でもなかったのにだ。きっとその行動は彼の残った人としての何かで、その行動とは全く別に意志を持って俺の腹の中で蠢く触手は別の彼なのだと。そう思ったら、何故か涙が溢れた。
 変わってしまったのだ。
 溢れた涙でクリアになった視界に入ってきた、俺をひたすらに犯す彼。そこにいたのは浅黒い肌を持つ黒髪の男だった彼の面影など、ひとつもない、ただの変容したソウルフレア幼体だった。
 何をもって救いとするか。
 そんなことは本人さえ分からない。
 このまま俺を喰い殺し、ソウルフレアとして生きるのが、彼の幸せなのかもしれない。俺たちは、自分たちのエゴで彼らを「救うため」に狩りとるのだ。
 変容してしまった同業者を狩るのは、いわば自分たちに課せられた義務だ。彼らは魔の力に溺れ、体内の魔を制御出来ず、魔に取り込まれた弱者だと言われた。狩られるのがさも当然であるかのように。俺もまた、難の疑問も持たず彼らを狩り、言われるがままに喰らった。
 喰らうことで、己が血肉となる。彼らの魔を喰らう。どちらがより魔に近いだろうか。
 だけど、これしか方法を知らない。
 こんな場所でソウルフレアの幼体が見つかったとなれば、すぐに不滅隊がやってくる。彼はすぐに闇に葬られるだろう。まるで最初から居なかったかのように、手際よく処分される。
 そうなるくらいなら。
「あんたのことは、俺が覚えておいてあげる」
 途切れ途切れに囁いた言葉。
 その言葉に、どれだけの慰めがあったかなんて分からない。
 名前も知らない同業者。でも、俺が生きてる間は、あとどれだけ生きていられるかなんて保障はないけど、その間くらいは覚えておいてあげられると思う。
 震える腕で、近くに転がった愛剣を掴んだ。
 俺の上で奇妙な咆吼を上げながら必死に腰を打ち付けてくるソウルフレア。力を込めれば尻を強く擦っていく感触。彼が中で吐き出した体液が一緒に溢れ出たのが分かった。麻痺していた感覚器が、徐々に正常さを取り戻していく。じんわりとした腹痛と、こじ開けられている鈍い痛み。
 限界、そう言葉にするのは容易い一本の線が間近に見えていた。

 胸から、頭に向かって、突き刺したのは一瞬。

 剣を伝うのは、人と同じ赤い体液だった。
 吹き上がる血、崩れていく身体。それでも俺の腹におさまった触手は元気にのたうった。
 その感触に歯を食いしばり、最後まで押し込んで。

 どれくらいそうしていただろう。
 腹の中に熱い何かをぶちまけられて、大きく身体を震わせると、俺の上で浅黒い肌の男だったモノは触手を波打たせて崩れ落ちた。


 

 

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