Crazy Heart/Onslaught

 




 女と違うから。
 小さくそう言ったカデンツァは、器用に足先で俺の荷物の中からサイレントオイルの小瓶を探り当てると拾い上げた。最初音消えるけど、そう断ってカデンツァは両手に振りかける。一瞬何をしているのか分からなかったが、その手がカデンツァ自身の尻に伸ばされるのを見て理解した。
 すんでの所でその手を捕まえて、ドアに押しつけるようにして指を絡ませる。オイルでしっとりと濡れる指先を絡めとってお互いの手をオイルで汚した。
 キスで唇を塞いだまま、オイルに濡れた俺の指を尻に這わせ、ゆっくりと馴染ませ刺激する。熱の籠もった吐息がこぼれたのは、きっと気のせいじゃあない。極限まで摩擦をなくすサイレントオイルの効果は絶大で、ぬるついた指は音もなくカデンツァの内側へと入り込んだ。塗りつけるようにして内側を撫でると、柔らかい内壁が指に絡みつく。
 カデンツァの手は俺の性器を擦りあげ、驚くほど繊細な指先が快楽を織り上げていった。かたく勃起した性器に、カデンツァが微かに笑った。
 お互いの熱で溶けていくサイレントオイルがカデンツァの太ももを伝う。
 溶けて、流れて、効果が薄くなっていくにつれて、くちゅくちゅという水音が聞こえ始めた。そして、指に絡みつく内壁が、ぎゅっと締め付けられる瞬間、カデンツァが小さく声を漏らした。
「指、増やすか?」
「…いい。そのまま、もう入れて大丈夫」
 何が大丈夫なのか分からなかったが、太ももを片方持ち上げると、カデンツァは顔を顰めた。そんなに背は高くない俺だが、小柄なカデンツァとではやはりだいぶ違う。床に足先をギリギリ付ける形で、俺はカデンツァの尻を持ち上げた。背中だけをドアにつけ、後ろ手に身体を支えるカデンツァの腕。
 苦しそうに吐き出される息。
 結局、カデンツァの足先は床から浮いた。
 脚を大きく広げ、ドアに押しつけられていた手は俺の首に回った。カデンツァ自身の体重で、狭い内側を割り拓くかのようにして奥へと進入していく俺の性器。深く、深く入り込んでいく時の音は、それだけで射精感を誘う。
 尻たぶを広げ、ギリギリまで身体と身体をつなげる。
 苦しそうに短い息を吐くカデンツァに、内側でぎゅうぎゅうに締め付けられて首を横に振った。
「締めすぎ、だ」
「痛い?ごめん、俺へたくそだから」
 何がヘタクソなのか。クソ。
 丁度よくバカみたいに締め上げられて、長く保ちそうにない、だなんて口が裂けても言えない。
 お互い呼吸を整えて、俺はカデンツァの背中をドアに押しつけると、強く揺さぶった。歯を食いしばったカデンツァ。僅かに引き抜かれた性器が、もう一度狭い奥を突く。ただ、それの繰り返しだというのに、底知れない快楽が繋がった場所から押し寄せた。
 俺は夢中でカデンツァを揺する。
 部屋には突き上げるたびにドアがたてる音と、ぐちゅぐちゅという空気を含んだ水音と、お互いの荒い息が折り重なるようにして響いた。それらの音すら、淫猥で、ただただ興奮する。
 目を閉じて、何かを堪えるかのように顔を顰めるカデンツァに口付けた。
「ふ、んう」
 あぁ、イキそう。
 ドアを伝わせて床まで下ろし、カデンツァの両脚を抱えた。腰だけを浮かし、開いた足が天井を向く。小さな尻に突き立てられた俺の性器が、まるで凶器のようにグロテスクだ。俺の浅黒い手が添えられた肌がやけに白く見える。カデンツァの性器は勃起していなかったが、俺はもうそれどころではなかった。
 ひたすらに自分の快楽を追う。男であるなら、この瞬間がどういうものか分かるだろう。
 何も考えられなくなった瞬間、隙間なく密着した肌と肌の奥で、何かがはじけた。詰めていた息を吐き出すと、カデンツァもまた、ゆっくりと息を吐いた。
「ゆっくり、ぬいて。こぼれる」
 言われた通りにゆっくりと引き抜くと、カデンツァは解放されたような安堵した表情で小さくあぁ、と声を上げる。すぐに上半身を起こし、近くにあった服を掴むと、カデンツァは着衣を整え始めた。
「あんたの部屋、汚す前に帰るよ」
「カデンツァ」
 呼ばれて振り返ったカデンツァの表情に薄い膜が張る気がした。
 作り笑顔を俺に向け、カデンツァはドアを開けながら一言。
「じゃあね」
 と、言った。


 

 

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