Gusgen Mines/Catastrophe

 




 掘り出した鉄鉱石をインゴットに精製する。
 先ほどからつまらなさそうに自分のその作業を見ているヴァルがため息をついた。
「なぁ」
 亜鉛鉱とスズと銀鉱と、革袋に沢山溜まった鉱石を分類しながら一つ一つインゴットにして重ねていく。金鉱と黒鉄鉱は後回し。それらはあわよくば競売で捌くためで、今のところの問題は銅鉱の処分をどうしようかってところ。
 ここグスゲン鉱山はちょっとした心霊スポットで、夏は肝試しのメッカとなるほど怖い場所。
 何が怖いかって、自分しかいないのに普通に笑い声とか聞こえるし、足音は滅茶苦茶多いし、たまに耳元ですすり泣かれるし。彼らはここの鉱山事故での犠牲者だと言われているんだけど、どう見ても女性や子供も見えるんだよね。
 バストゥーク共和国の年表によると849年に大規模な落盤、火災事故がここで起きてる。女性や子供は一体何処からここに迷い込んだのか、炭鉱夫たちが呼び寄せちゃったのか、それともたまたま落盤事故に居合わせたのか。
 どっちにしろ表向き採掘量減少のため廃坑とされているけど、事故の犠牲者の霊がこんなにうようよしてたら廃坑にせざるを得なかったんだろうとは思う。まあ、お陰でこうやって耳を塞ぎつつつるはし振れば貴重な鉱石が手に入るわけなんだけど。
「なぁ、って」
 そうヴァルが痺れを切らしたように自分の肩を掴んだ瞬間、大きなサイレンの音が響き渡った。
「うわ、びっくりした」
 びくっとしたヴァルを思わず笑ってしまう。
 毎晩、この時間になると鳴り響く緊急事態を示すサイレン。
 この時間こそ、その落盤、火災事故発生時間なのだ。繰り返される彼らの悪夢。何度も何度も同じ記憶を繰り返して、この鉱山はずっと生き続けてる。そう考えると、すごく哀しい。終わらない苦しみって、つらいよ。
「もうこんな時間なんだね」
 端末に表示された時間を見て、随分長い時間グスゲンに籠もっていたことを知った。
「ずっと掘ってばかりじゃねぇか」
「だって、最近バトルばっかりだからたまには楽しいことしようって言ったじゃん」
 ヴァルが口を開けたまま愕然とした表情を見せる。うるさいな、地味な金策好きなんだ。
「お前なぁ、楽しいことっていうのは」
「ね、ちょっとこのインゴット持ってて」
 革袋の中の銅鉱を整頓しようと思ってインゴットを重ねてヴァルに手渡した。思ったより重たかったらしく、一瞬バランスを崩したもののさすがエルヴァーンぐっとそこは堪えた。ヴァルはインゴットの山をじっと見つめて不思議そうに首を傾げる。
「インゴットって、なんでみんなこんな形してんの。南方伝来のダマスクもそうだよな」
「重ねやすいようにじゃないの?まあ鋳型がそうだからね」
「オレならもっと画期的な形にするけどな」
 俄然興味がわいて、整頓しようとした銅鉱をいくつかヴァルに押しつけるように渡した。代わりにインゴットを別の革袋に入れて片付ける。
「やってみたら、素人でも出来るよ」
 ついでに炎のクリスタルも手渡して、わくわくしながらヴァルの精製を待った。
「なぁ、うまく出来たら楽しいことしようぜ」
「ん、いいよ」
「その言葉、わすれんなよ」
 にやりと笑ってヴァルは合成の姿勢に入る。ゆっくりと炎クリスタルを中心にインゴットのイメージを膨らませて、そしてクリスタルは一際大きく光を放った。ずぶの素人だと思ったのにハイクオリティとか。
 だけど出来上がったものを見たとき、正直バカだと思った。
 バカだ。ハイクオリティとかバカすぎでしょ。
「なにそれ」
「カッパーインゴット」
 ぜぇーったい嘘だ!そんな形のインゴットがあるか。
 銅製のそれはいつもの鋳型にそったあの形ではなく、どう見てもナニの形をしていた。ナニ、って、アレだよ。そう、アレ。男の、アレ。しかもたってる状態のやつ。テカテカな表面はなめらかに仕上げられていて、筋とか、ものすごくリアルでなにその無駄な凝りよう。あぁ、でもそこがハイクオリティなのかな。
「そんなの重ねにくいじゃん」
「突っ込むのはそこかよ」
「いや、てかちょっと小さくない?」
「突っ込むから」
 今なんか。
 不穏な。
「楽しいことしよう」

 

 

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