Sacrarium/Catastrophe

 



 礼拝堂でスウィフトベルト取りを手伝って欲しい、ってテルが来たのが昨日のこと。

 彼は自分が駆け出しの頃に何度かパーティを組んでフレンド登録した人のひとりで、色々と手伝ったこともあってか忘れそうな頃にこうして連絡をくれる数少ないフレンドだった。
 前回のテルはオプチカルハットだったから1年くらい前。今だからこそ笑い話だけれど、自分が参加したあの手のツアーでは過去に類を見ないほど酷い結末だった。
 いまだに思い出すと笑っちゃう。それくらい酷かった。
 自分がトラブル体質なのか、それとも彼なのかは分からないけれど、彼に誘われたツアーが問題なく終わったことを知らない自分にとって、今回の礼拝堂ツアーも相当な覚悟をもって臨まなくてはならないことだけは確かだった。
 集合時間と必要な薬品、構成その他色々聞いて準備を進める。
 決戦は一週間後。
 彼たってのお願いで何冊かあるフォモルコデックスのためにフォモルたちの恨みを買う役目を負うことになった。自分もこれは随分苦労したし、手伝えることなら手伝いたい。
 連絡が来た日の夕方、早速ミザレオ海岸に向けて出発した。本当なら何人かで手分けしてやったほうが楽だけれど、生憎と参加メンバの中に自分の知り合いは皆無。幸いなことにひとりで出来ないことでもないし、と思って不測の事態に備えて大目の薬品と食事を持って砂丘の渦に飛び込んだ。
 飛び込んでから、こんなことに唯一付き合ってくれそうな人物を思い出す。
 いや、まだわかんないんだけど。
 専用のパールを耳たぶにつけて恐る恐る呼び出してみる。
 コールはきっちり3回。
 今暇かな、ミザレオ海岸に居るんだけど。
 そう言ったらヴァルはすぐに来てくれた。
「油目ヤスリか?」
「それはもう終わった。今日はうらみ買うの」
 そう言ったら目を細められてじっと見つめられる。その視線が何を見ているかなんてすぐに分かった。
 なんとなく言わないといけない気がして、フレンドの礼拝堂手伝いの話をしたら大きなため息をつかれる。
「うまく利用されてるでしょ、それ」
「で、でも、ほら、数少ないフレンドだし」
 これが本音。
 自分のダメダメな性格。
 そんなこと分かってる、といわんばかりにヴァルはもう一度深いため息をつく。
「テル、くれるし」
 だって誰かさんはくれないし。
 何かあったら連絡しろよ、とか言って二人だけの専用のパールまで握らせた癖に今まで一度も連絡をくれたことがない。いつだって呼び出すのは自分からで、こっちから連絡しなければパールはうんともすんとも言わなかった。それに対して忙しかったんだとか言い訳されても、自分の呼び出しに応えなかったことはないのに。
 なにそれ、よくよく考えたら超放置プレイじゃんね。
 自分ばっかり連絡してさ、寂しい子みたいじゃん。
「分かったよ。悪かった。オレへの恨みもたまりそうだ」
 俯いた自分の頭に大きな手が乗せられて、ターバンごとくしゃくしゃと撫でられた。
 


 

 

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