Mirror, Mirror/Catastrophe

 




 オークに奪われた鏡を探して、手分けしてオークの拠点を探すことにする。
「オレはダボイ、お前はゲルスバで。見付けてもすぐに手を出さないこと、分かったな」
 彼が持っている導きの鏡と違って、その鏡は得体の知れない力を持っている。うかつに触れてどうにかならない保障もない。ゴルディヴァルの注意に頷いて南サンドリアのレンタルチョコボショップで別れた。
 チョコボをひく彼の背中に気をつけてね、と声を掛けると少しだけ笑いながらゴルディヴァルが振り返る。
「お前の方が心配」
「ぼく、頼りない?」
「そうじゃない。練習相手にならないからって油断するなよ」
「見付けたら連絡する」
 そうしてくれ、と言ってゴルディヴァルはチョコボに跨って飛び出した。
 ゲルスバはここから近いけれど、折角なので自分もチョコボを借りることにする。
 ゲルスバはサンドリア王国の目と鼻の先にあるオーク族の野営地だ。本国の真横に設置されたオーク族の砦は、まさにサンドリア王国の衰退を目の当たりに出来る光景とも言える。
 この場所を指揮するのは戦闘隊長バットギット。
 バットギットと言えば、この間過去のエルディーム古墳でタコ殴りにされた相手だったりする。今なら仕返し出来る気がしたけど今の目的それじゃないし。
 オーク達の徘徊する野営陣入り口をチョコボで駆け抜けて侵入し、野営陣から砦に向かう。
 少しだけ、オーク達がざわついているような気がしたのは気のせいだろうか。練習相手にならないとはいえ慎重に奥へと進んでいくと、前方で何かが光を反射して煌めいた。咄嗟に身を隠すも、あれはフラッシュやホーリーのような魔法の光でもなければ、炎でもない。
 もう一度光った方向に身を乗り出すと、一匹のオークが野営テントに入っていくのが見えた。
 オークの手が、太陽の光を反射して瞬いた。
 武器じゃなかった。だって、斧は腰についていたし、短剣かとも思ったけどそんな獲物は何一つ見えなかった。
 鏡。
 真っ先にそう思った。
 オークが鏡を持っている。あり得ない話じゃない。
 あれが、輸送隊から奪われた、鏡。怒りで我を忘れさせるという曰く付きの。
 連絡しようかと端末を取りだしたけれど、もし見間違いだったらいけない。そう思って、オークの後をこっそりとついていくことにした。遁甲の術を使えば、周囲の風景に同化してしまって自分の姿はオークから見えなくなる。持っているものが鏡だと確認出来たら、ゴルディヴァルに連絡すればいい。
 足音を立てないように素早く移動してオークを追いかけた。
 野営テントの中では少しだけ階級が上のオークが休息を取っていたけれど、そのわきを慎重に通り過ぎる。
 テントの奥はどうもキャンプに繋がっているらしく、食料なのかなんなのか放し飼いにされたトカゲや資材、武器が無造作に置いてある。ちょうど外からは丸太を組み合わせた柵で囲い込まれたそこは、将校オーク達の居住スペースとでもいうのか。
 先ほどのオークはその奥のコンテナに向かって歩いて行く。
 息を潜めてその手に握られているものを確認しようとギリギリまで近寄ったところで、異様な気配を感じて振り返った。
 そこに居たのは、ザルカバードにいるような、四つ足のドラゴン。
 この辺りにドラゴンなんて、召喚された以外で見ることはない。
 何ものかが召喚したのか、それとも。
 多くを考える暇なんてなく、いきなり咆吼をあげたドラゴンはその牙を真っ直ぐに自分に対して突き下ろした、ようにみえた。思わず顔を腕で覆った先に見たものは、自分の頭上を越えて振り下ろされた大きな足が、例のオークを簡単に叩きつぶした瞬間だった。
「えぇー!」
 オークの手から転がった何か、の存在を確認しようとするも、ドラゴンの次なる目標が自分に向いているのが分かる。
 こういうとき、慣れとか、無意識、っていうものに感謝してしまう。
 すぐさま懐から取りだした紙兵を使って空蝉の術を唱える。だけど、その指に違和感。
 ドラゴンの牙を受け流そうと抜刀した片手刀がやけに重たい。
「はっ、ぁ」
 振り下ろされた牙をどうにか受け流したけど、手に残る痺れが警鐘を鳴らしていた。
 いやだ、なんか、身体が重い。
 見えてるのに、分かっているのに、イメージ通りに身体が動かなかった。紙兵が自分の身代わりになって攻撃を受け、あっさりとただの紙切れに戻る。いつもなら間に合うはずの詠唱がちっとも間に合わなくて、避けたはずの爪が肩口を掠め、尻尾が脇腹を打つ。
 いつものように鈎縄を使おうとしても、指が滑る。
 催涙卵が明後日の方向に落ちた。
 じわじわと削られる体力。
 ドラゴンの爪が額を裂いて、ワラーラターバンが宙を舞う。


 

 

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