Girl in the Looking Glass/Catastrophe

 




 人間の身体って、意外と順応するんだ。
 とか、思った。

 身体の中で蠢く二本の指が、塗り込められたオイルかなにかでぐちぐちと音を立てる。
 凄く痛いのに、指はなんの問題もなく抜き差しされるのがやけに怖かった。血、とか出てないよね。覆い被さる彼の身体で入っている所は見えないけれど、それがまた怖かった。
「大分慣れてきたな」
 もうどれほどの時間がたってるのかも分からない。
 でも、彼が事を急いているわけではないのが助かった。ほんとにゆっくりと、何度も指を抜き差ししてくれて、これが慣れた、という事かは分からなかったけれど痛みの質が変わってきたように思う。
 三本目の指が入ってきたとき、歯を食いしばって耐えた。
 ここまで来ると、変わらない、と思った。
 だから、次が本番だ、と思っても、何も思わなかったし、なんか、疲れて。
 腰を抱えなおされて、足を拡げられても何も思わなかった。
 彼は呆然としている自分の頬を何度も撫でてきたけど、反応を返すのも億劫で、うん、とか、いいよ、とかそういうことを言ったと思う。よくなかったけど、ここまでしたのに最後まで出来なかったら可哀想だし、痛いだけなら今までと同じように我慢すればいいだけだ。
 それに、もう、出来ないって逃げたくなかった。
 口に彼の服を突っ込まれて、舌を噛むなよ、と言われる。
 うん、頑張る。頷いたら、少しだけ心配そうな顔をされた。
 散々指で慣らされたそこに、指とは比較にならないような質量のものが押し当てられて、身体が震える。
「無理なら、言えよ」
 何を今更。
 先っぽがこじ開けただけなのに、痛みとか、そういうのの次元を越えていた。
 シーツを掴んで、必死に耐える。
 ファングラッシュとかさ、ああいうのって凄く痛いけど、その一瞬だけなんだよね。その後はじわじわと痛みは熱になって拡がっていく。要するに拡散していくっていうか、麻痺していく、っていうのかな。あとはすぐケアル飛んできたりして、痛みはなんだかよく分からないまま有耶無耶になっていく。実際酷いときはその一瞬で意識ぶっ飛んでしまうから、痛いって感覚は意外と体験していなかったのかもしれない。
 だけどこれは違った。
 鋭い痛みがあって、次にくる鈍い痛みがそこだけに集中してる。
 こんな痛み、感じた事ない。
 気がつけば服を噛みしめたままぼろぼろ泣いてて、彼が優しく頭を撫でてくれていた。
「やめるか?」
 首を横に振る。
 先っぽしか入ってないことはなんとなく分かる。
 続きを促すと、やっぱりちょっとだけ困ったような顔をした。
 押し進められる腰にデスシザーズとかを思い出して痛みを和らげる。あっちの方が痛かった。死ぬかと思った。でも今は死なないから。今ならなんでも耐えられそうだ。
 大丈夫。

 …な、わけない。
 痛みにどうしようもなくて藻掻いたら、強く、ビックリするくらい力強く抱きしめられた。
「オレの目を見て」
 緑色の目に、自分の顔が映ってた。
「オレの事だけ考えて」
 え、と思う間もなく唇が塞がれて、そして下半身に鋭い痛みが襲ってきた。
「ん、う、う、うぅ」
 苦しいのか、痛いのか、もうごちゃ混ぜで頭の中が弾けそうだった。目の前はちかちかとしっぱなしで、自分の身体が揺れてることで動かれてるってのは分かるのに、感じる痛みはもうどこから来るのか分からないでいた。
「はぁ、あ、ぁ」
 唇が離れて、シーツ掴んでいた手を握られて。無意識に指絡めて。握り締めて。
 早くおわれ、おわって。おわれよ。
 その祈りが届いたのか、音を立てて引き抜かれた後、お尻に生温かな感触を感じた。

 

 

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