Unlisted Qualities/Catastrophe

 



 今日も今日とて一人きり。
 ぼうっとジュノブリッジから遠く見える水平線を見ながらため息をついた。
 金策とか、色々しないといけないのにここから動けないでいるのは何故だろう。形ばかりでただ羅列されているだけのフレンドリストを眺めてがっくりと項垂れる。
 一期一会とは言うけど、本当にその時だけで後に続かないのはきっと自分のせいだ。
 もうヴァナ3年目だというのに、仲のいい友達なんていやしない。
 ここに見えてるフレンドリストだって、自分が忍者だからっていう理由の「お知り合い」が大半だ。以前は希望なんか出さなくてもお誘いが来たというのに今じゃそんな忍者ブームも下火になって、端末に連絡が来なくなって何ヶ月たっただろう。寂しさを紛らわせる為に【レベルシンク】OKとか自己アピールして希望者登録してみても今こうして放置されているわけで。
 ジュノにいるからかな。
 いやいや、普通サーチかけるときはオールだよな。
 装備がユニクロだからかな。
 いやでも一般的な忍者と変わらないし。
 むしろちょっと頑張ってる一般的な忍者だと思うんだけど。
 再びため息。
 白門の喧噪が苦手だった。
 賑やかで、華やかで、取り残されたような気分になるから。
 活気あった頃のジュノの方が凄かったような気がするけど、あの活気はみんなにあった。みんながみんな、笑って、なんていうか、一人じゃなかった。実際一人だったのかもしれないけど、そう感じなかったんだ。
 なんか思い出せば思い出すほど今が惨めだ。
 端末を操作して希望登録を取り消して、必死にアピールした自分のコメントを削除すると立ち上がる。時計塔を見上げると、あれからもう2時間もたっていた。冷えてしまった肩を撫でてモグハウスに帰ろうと歩き出す。
 こんなんじゃ、ダメなのにな。
 金策もしなかったから寒い懐。今日の夕飯どうしようか、なんて考えていると突然女神聖堂前で声を掛けられた。
「ちょっと、ねぇ、あなた」
 振り返って自分じゃなかったら自意識過剰みたいじゃん。
 自分なんかに声掛けないよ、と思い込んで止めかけた足をそのまま踏み出すと、はっきりと呼び止められた。
「ぼく?」
「そうよ、あなた、暇だったりするかしら。ちょっと聞いてほしいことがあるのだけど」
 暇だと思って声掛けたんでしょうが。
 視線を声の主に向けると、そこには赤いチュニックを纏った妙齢のミスラ。やけに身体をくねくねさせて、無理矢理腰を屈めると背の低い自分を覗き込むように見上げた。
 その目は明らかに、暇でしょ、と言っていた。
「一人で困ってたのよ」
 やけに一人で、を強調されて微妙な気分になる。
 返事をしないでいたら、ミスラはなにやら分厚い名簿を取りだして、この名簿に載ってる人が鏡を持ってるか調べないといけないのだけど沢山あるのよ、ほんと困るわ、と独りごちた。
「ね、ぜひ手伝って貰いたいの」
 どうかしら、ね、頼める、と期待に満ちたまなざしで見つめられ、いやと言えない自分がそこにいた。
 押しに弱い自覚はあるし、この性格が友達を作れない理由の一部なのもよく分かってた。
 人恋しいから、いい顔をする。
 なんでもいいよ、って安請け合いしてしまう。
 そんなこと出来ないのに、やろうとして失敗して、落胆させて。
 そして、逃げてきた。
「この町だけで、この量よ。いやになっちゃうわ」
「手伝います。出来るか、分からないけど」
 そういったらミスラはさらに身体をくねらせて喜びを表現した、ように見えた。

 受けたのは、心境の変化?
 それとも、ただやっぱり暇だったから?
 人恋しいから?

 リストの中から選んだのは、なんとなく自分によく似たような感じがしたエルヴァーン男性。
 思い込みだけどさ。

 でもこの選択が、自分の人生を根底から覆すことになるなんて、その時は思いも寄らなかった。



 

 

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